人材不足が全業界の中でも厳しい建設業界ですが、後継者不足についても深刻な状況にあります。後継者不在を建設会社は8割にものぼり、事業承継の失敗による倒産・廃業も増えています。そんな中、企業の存続を図るために次期社長を迎え入れる新たな採用手法としてヘッドハンティングが注目されています。本記事では、事業承継の選択肢と外部から後継者をヘッドハンティングすることについて知見を持つコンサルタントが解説します。
深刻な建設業の後継者問題
建設業界では経営者の高齢化が進んでおり、後継者不在の状況は深刻となっています。
総務省統計局がまとめた2023年の個人企業経済調査によると、後継者がいないと回答した建設会社の割合は2019年の77.9%から徐々に増加し、2023年には81.5%に達しています。法人として登記していない個人が経営する企業約4万社を対象に売上高や事業主の年齢などを調査し、約3万社から回答があり、そのうち建設業が4541社を占めていました。
資料出所:総務省

また同調査では、個人企業の建設会社における事業主の年齢は、60歳以上が全体の約7割を占めています。2019年と2023年を比較すると、60~69歳が38%から29.8%に低下したのに対し、70歳以上は32.2%から41.7%へと10ポイント近く上昇しました。建設業は、技術者の高齢化だけではなく、経営者の高齢化も進んでいるのです。
資料出所:日経クロステック

どして、後継者不在による倒産も増えています。東京商工リサーチの調査によると、2024年上半期(1-6月)の後継者不在を原因とする「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は254件(前年同期比20.9%増)で、調査を開始した2013年度以降で最多件数を更新しており、産業別の件数では、建設業が最多の60件(前年同期比20.0%増)となっています。つまり、経営状態には問題がないものの、経営を引き継ぐ人材を見つけられないがために、倒産せざるを得ない企業が増えているのです。
資料出所:東京商工リサーチ

後継者問題を解決するために選択肢
親族内承継
日本で、最も一般的な事業承継は、子供や配偶者、兄弟など自身の親族に会社の経営を引き継ぐ「親族内承継」です。経営者が直接、後継者を指名できるため、経営理念や企業文化の継承を比較的スムーズに行うことができます。また、株式の承継についても、近年は税制優遇の制度も制定されました。さらに親族内承継の場合は、短期の利益を追うよりも長期的な目線で企業の存続と成長を重視した施策をとりやすい面もあります。
親族内承継をするには、経営者が健康なうちから計画を立て、後継者の教育はもちろん、遺言書作成や各種税金対策など時間をかけて準備をする必要があり、一般的に5年から10年かかるとも言われています。相続や贈与の形で会社の株式が譲渡され、資産だけではなく負債も引き継がれるのが一般的です。
一方、親族である後継者が経営者の資質を備えているとは限らないこと、親族間だからこそ生じるさまざまな軋轢が会社経営にも影響を及ぼすことなどのデメリットがあることも指摘されています。また、建設業ではそもそも親族が事業を引き継ぐことを希望しないケースも多くあります。
第三者による承継
親族外に事業を承継する場合の代表的な方法として、自社の従業員へ引き継ぐ「従業員承継」があります。
社内の役員や従業員の中から、自社の業務や取引先の情報などに精通した優秀な人物を選べるため、事業の継続は比較的スムーズに行うことが可能です。また、相続による親族間の争いもなくすことができ、これによって経営権の分散も防ぐことができます。
従業員承継をする場合には、株式を誰にどのような形を引き継ぐのか、株式の承継については別途検討する必要があります。原則、株式は有償での譲渡となるため、後継者は株を買い取る必要があり、自己資金が足りなければ、銀行から融資を受ける必要があります。また、会社の借入の債務保証も引き受ける必要があり、その額が大きくなると、金融機関からの承認が得られない恐れがあるため、後継者候補と金融機関に説明の上、理解を得ることが重要になってきます。
株の買い取りが難しい場合、経営のみを任せる方法もありますが、中小企業において、資本と経営が分離すると、経営方針などを巡る対立により業務が円滑に進まなくなる恐れがあることを考慮に入れる必要があります。
また、親族から従業員への承継に反対する声が上がることに備えて、従業員承継の必要性について理解をしてもらうことや、社内で立場が逆転することによる先輩社員からの反発も考慮して、早めに根回しをしておくことも必要です。
М&A
親族外承継には、従業員以外に承継する方法もあり、その一類型として、М&Aによる事業承継があります。M&Aでは、会社を譲渡するので譲受企業から経営陣を迎え、これまで通り会社を存続させることができます。
これまで M&Aについては、「乗っ取り」というネガティブなイメージもありましたが、昨今は、事業承継問題を解決できる手法として注目されています。また、大企業が行うイメージが強かったものの、中小企業のM&Aを取り扱う仲介会社の増加や国の支援体制の強化によって、中小企業のM&A件数が増加しています。
M&Aでは、株を売却することになるため、そのことで創業者は利益を上げることが可能で、その後、相続が発生せず、事業承継がスムーズに進みやすいというメリットがある一方、希望とする条件で買ってもらえる企業を探すのに、かなりの時間や労力が必要になることが多いです。
一方で近年は、M&Aによる詐欺行為も増えてきました。買手企業が、売手企業の現金のみを吸い上げ、破産させてしまうようなケースです。これにより、売手企業の譲渡オーナーは騙され、借入金の連帯保証だけが残るような恐ろしいケースも増えてきました。M&Aによる事業承継にはメリットがあるものの、リスクも大きいということも理解する必要があります。
後継者候補の次期社長はヘッドハンティングで採用できる
事業承継にヘッドハンティングを利用するメリット
「息子に継がせたいが、まだ若すぎる。中継ぎを担ってくれる人が欲しい。」
「M&Aで良い候補先が見つからない。それであれば、外部から優秀な人材を社長として迎えたい」
近年は、上記のようなニーズが増えています。
親族や社内に、後継者候補となるような経営人材がいない場合、ヘッドハンティングを通じて、外部から優秀な人材を採用することが効果的です。外部からの人材に経営を任せることにより、これまでのしがらみにとらわれずに新しい施策を実行したり、新鮮な知見を取り入れたり、業績へのインパクトもあることでしょう。
事業承継の選択肢は、「親族」「従業員」「M&A」という3つだけではなく、「ヘッドハンティングで次期社長を採用」という選択肢があることも、覚えておいてください。
では実際に、後継者候補の次期社長はヘッドハンティングで採用した成功事例をみていきましょう。
ハウスメーカーA社の事例
神奈川県に本社を構えるA社は、賃貸マンションや住宅建築、リフォームはもちろん、不動産仲介や不動産管理まで手掛ける、地域密着型で展開している総合建設会社です。
社長のX氏は64歳となり、事業承継について、検討を進めていました。社内には、31歳のご子息が勤務していましたが、まだ入社して数年であり、修行中の身分。すぐに、経営をバトンタッチできるような状況ではありません。しかし、ゆくゆくは、ご子息に会社を継いでもらいたいという想いがあり、M&Aで株式を売却することが避けたいと考えておりました。
そこでX社長は、ご子息が一人前になるまでの期間を任せられるような、幹部社員を外部から採用しよう、という考えに至りました。幹部社員ですので、一般的な求人サイト経由での採用は難しく、ヘッドハンティングの導入を決断。
実際の動きとしては、建設会社やハウスメーカー等で役員・部長クラスで活躍している、業界の知見があり、なおかつマネジメントの経験を有するターゲット候補者をリストアップ。その後、一人一人の候補者に対してヘッドハンターがアプローチを行いました。結果的に3名の候補者との採用面談が実現。最終的には、中堅クラスのゼネコンで執行役員を務めていた50代の方の採用に成功しました。この50代の方は、当時、積極的に転職活動をしていたわけではなかったのですが、X社長の熱意やビジョンに共感し、人生最後のチャレンジを腹を決めて、移籍を決断。最終的には、年収アップも実現され、クライアント・ターゲット、双方にとって満足していただけるようなプロジェクトとなりました。
現在は、X社長が会長となり、ヘッドハンティング経由で入社をした50代の方が社長となり、当面は2名で会社を引っ張る形となりました。

まとめ
「親族の中に跡を継いでもらえる人がいない」
「ずっと黒字経営を続けてきたのに、後継者不足のため会社を廃業することを考えている」
「社外の後継者候補へのアプローチの仕方が分からない」
こんな悩みを抱えている建設会社のオーナーは、ヘッドハンティングの活用を検討する価値があります。
建設・不動産業界に特化したヘッドハンティングを手掛けているレガシーは、クライアント企業の風土を理解した上で、専門的見地から後継者候補の強みや弱みを見定め、承継後の成功を見据えて最適なマッチングを実現させることができます。
- 建設業界に精通したコンサルタント陣
- 建設業界における様々な人材との独自ネットワーク
- 建設業界特有の事情や時流を踏まえた採用戦略の支援
など、建設業界特化のヘッドハンティングだからこそ、ご提供できるサービスがあります。ぜひ一度、お気軽にお問い合わせください。
※プロジェクト設計及びお見積りは無料です。