【施工管理技士の採用手法】ヘッドハンティングは有効か?

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浅利 光
コンサルタント
浅利 光
筑波大学体育専門学群卒業後、独立系M&A仲介会社に入社し、M&A案件のソーシング及びエグゼキューションに従事。 建設セクターを担当するチームに所属し、建設業界・建設コンサルタント業界において、事業承継や人材不足等の課題を抱える中小企業オーナーに対するコンサルティング業務を行う。 その後、東証プライム上場のM&A仲介会社を経て、株式会社レガシーに参画。建設コンサルタントや建築・土木・管・電気等の施工管理技士の有資格者の採用支援を得意とする。 北海道出身。

近年、建設業界における有資格者の高齢化が進んでおり、人材不足が顕著になっています。特に、30代から40代のミドル層の施工管理技士・監理技術者等の資格者・技術者は比較的少数であり、多くの企業が、ミドル層の採用に苦労しています。通常の採用手法では、施工管理技士や監理技術者の採用は難しい状況下、ヘッドハンティングが注目されています。本記事では、施工管理技士や監理技術者のヘッドハンティングについて解説します。

施工管理技士の採用事情とは?

貴重な30代から40代のミドル層施工管理技士・監理技術者

施工管理技士の採用が難しい要因として、そもそも母数が少ないという事情があります。特に、30代から40代の施工管理技士は、50代以上の施工管理技士と比較して圧倒的に少数です。一方で、65歳以上の技術者は約2割まで増加しています。これらは、2008年前後のリーマンショックや2010年から2012年頃の民主党政権下においての建設政府投資の削減が大きな要因であると推測がされています。2008年から2012年頃は、建設業界にとっての事業環境は最悪であり、約10万社が倒産したというデータもあります。倒産までに至らない企業も、新規採用を含む各種投資を控える傾向にありました。そして、10年、15年経った今、当時、新規採用を絞ったツケが、ミドル層の施工管理技士、現場監督の不足に繋がっているのです。これは、各社の企業努力不足ではなく、政策によって、そうせざるを得なかったという部分が大きいでしょう。

将来のキャリアを考える50代、60代が急増

世間では、「老後2,000万円問題」や「人生100年時代」などのワードが、話題になっています。日本人の寿命は年々伸びていく一方で、60代以降の生活について危機感を持っているシニア層が増えているのが現状です。特に、50代から60代前半の年代の方は、定年退職もしくは役職定年が近づき、給与が大幅ダウンといったリスクもあります。企業によって、シニア層の活用方針は異なりますが、過去に実際にあったケースとして、役職定年後、関連会社へ出向となり、給与が4割程度ダウンになった例もあります。一方で、近年の50代、60代の方は、健康的である方も非常に多く、勤労意欲も高い傾向にあります。建設業界では、若手・ミドル層の採用が激化している中、シニア層の施工管理技士等のベテラン技術者の有効活用が非常に重要になってくるでしょう。

建設業界における主な採用手法

最もポピュラーな「求人広告」

求人広告は多くの企業に利用されている一般手法です。リクルートエージェントやdoda等の大手ネット求人広告サイトが主流となっています。あくまでも、広告であるため、広告掲載料が発生します。広告のランクにもよりますが、一般的には数十万円から100万円程度、期間や表示サイズ等によっては、より高額になるケースもあります。求人広告は、比較的安価かつ手軽に募集が行えるというメリットがあります。一方で、自社が求めていない人材からの応募が殺到することも多く、採用担当者への負荷が大きくなるリスクがあります。加えて、建設業界においては、圧倒的な売り手市場であることから、30代-40代の優秀な人材からの応募はほとんどないといっても過言ではないでしょう。そのため、コスト面では手が出しやすいものの、費用対効果が良いとはいえないケースもあります。

近年広がってきた「リファラル採用」

リファラル採用とは、社員のネットワークからの紹介及び推薦から採用する手法です。日本では、従来から縁故採用という形で、取り入れている企業もありました。近年は、それを改めて制度化した上で、紹介者への報酬制度を策定している企業も増えてきました。リファラルで採用された社員は、離職率が低いという傾向があります。やはり、入社前から、紹介者から企業の実態を聞いた上で入社している点、入社後も紹介者からのフォローが受けられる点が、定着率の高さに寄与しているものと思われます。

多種多様なエージェントが存在する「人材紹介会社」

人材紹介会社とは、候補者を企業に紹介した上で、内定承諾もしくは入社した段階で、手数料が発生するビジネスモデルです。人材紹介会社は、多種多様な人材との接点を有していますので、自社のみではアプローチできない人材と会える可能性があります。近年は、業界特化型のエージェントが増えており、特定の業界に強みを持つ人材紹介会社が活躍しています。また、エージェントが企業と人材の仲介者となることで、採用担当者の工数を削減し、負担が軽減できるというメリットがあります。一方で、採用が成功した際には、理論年収の30%~50&程度の手数料が発生しますので、一定のコストを勘案する必要があります。

企業が直接アプローチする「ダイレクトリクルーティング」

CMでもお馴染みのビズリーチ等のダイレクトリクルーティングサイトが近年台頭してきました。リクルートダイレクトスカウトやdodaXなど、ビズリーチ社以外にも大手が参入してきており、ダイレクトリクルーティング市場は活況になっています。一方で、若手・ミドル層の採用競争が激しいという面は、他の採用手法と同様であり、人によっては100通近いスカウトを受け取っている人もいます。建設業界においても、若手・ミドル層の施工管理技士等の技術者は非常に人気であり、多くの企業やエージェントからのアプローチを受けていることから競争も激しく、実際の採用成功率は高くありません。

企業が直接アプローチする「ダイレクトリクルーティング」

ヘッドハンティングと聞くと、「社長や経営陣などのエグゼクティブクラスの採用に用いる手法なのでは?」という印象を持つ方がほとんどかと思いますが、近年、ヘッドハンティングは中間管理職や技術職・専門職の採用にも広がってきています。施工管理技士等の資格者も通常の採用手法では採用が難しく、ヘッドハンティング会社を利用するケースが増えてきました。一方で、一般的にヘッドハンティングは、契約時に着手金・契約金(リテーナー)が発生することがほとんどです。原則、プロジェクトが失敗した場合においても、着手金は返還されないため、企業側には無駄なコストが発生してしまうリスクがあります。他の採用手法と比較して、採用成功確率は最も高い一方で、着手金や成功報酬等のコストも大きくなるため、自社の採用予算を考慮して、活用する必要があります。

建設業界における主な採用手法

大手電気工事会社A社

上場大手サブコンA社は電気工事施工管理技士をはじめとした技術者の確保を、中期経営計画において掲げていました。一方で、優秀な電気工事施工管理技士の採用は非常に難しく、通常の採用ルートでは、目標採用人数には届かない状況でした。そこで、ヘッドハンティングの活用を決断。ヘッドハンターが、ターゲットのピックアップから面談、クロージングの条件交渉まで一貫してサポート。転職市場では会えないような同業他社でご活躍されている技術者との面談が実現し、3名の1級電気工事施工管理技士の採用に成功しました。採用に成功した要因としては、在籍企業により技術レベル格差があるため、企業の要件にマッチする人材のピックアップをした上で、一定の技術力を持つ人材のみ企業面談へ進めたことが大きな要因でした。また、実際の面談では、クライアントが採用に積極的な姿勢を示せたことにより、ターゲット人材の意思決定に大きな影響を与えました。

ヘッドハンティングのターゲットは、必ずしも転職意思がある方ではありません。ターゲットとなる方のほとんどは、現職で活躍している方であり、企業としてはターゲット人材を「口説く」スタンスで臨む必要があります。逆に言えば、企業側がどれだけ自社へ移籍するメリットや魅力的なオファーを提示できるかが、ヘッドハンティング成功へのカギとなってきます。

中堅プラントエンジニアリングB社

半導体製造装置や食品プラントのエンジニアリングを手掛けるB社は、資格者が高齢化していました。特に、一定の受注金額を上回る工事については、監理技術者(機械器具設置)の常駐が必要になりますが、自社の監理技術者は3名しか在籍していません。なおかつ、その3名とも60代であり、高齢による退職リスクもあります。監理技術者が在籍していなければ、大型の工事が受注できずに、機会損失となってしますことも考えられます。つまり、監理技術者の資格者ですが、自社の生命線といっても過言ではないのです。しかし、直近10年の間、採用活動をしていたものの、採用に至らず。最後の一手として、ヘッドハンティングの利用を決断しました。機械器具設置の監理技術者は非常に希少であり、ターゲット人材のピックアップは難航しましたが、最終的に3名の資格保有者との面談が実現。そのうち1名は、働き方の観点から現職に疑問を感じていたところ、B社からのアプローチを受けました。B社は、同業他社と比較して、働き方の改善に率先して取り組んでいることから、ターゲット人材にとっては求めていた環境でした。また、年収面については、ほとんど現状維持という形の提示を受け、働き方など総合的な観点からB社に魅力を感じ、移籍が実現しました。施工管理技士や監理技術者などの建設技術者は、長期出張や深夜残業、休日出勤等の高負荷な働き方をしている方もまだまだ多いです。企業としては、良好な労働環境を整備することが魅力向上に繋がるという認識で重要になります。

地方中堅ゼネコンC社

四国地方の公共工事を中心に豊富な受注実績を持つC社は、土木及び建築施工管理技士の高齢化に頭を悩ませていました。在籍する施工管理技士は、ほとんどが40代後半以上の方。直近では、年齢や体調を理由に引退する方、時短勤務を希望する方も増えてきており、即戦力となる資格者の確保が喫緊の課題でした。また、公共工事の入札において重要となる経営事項審査の評点の算定には、各資格者の人数も重要な要素となっています。つまり、資格者が減少すると評点の減少につながり、公共工事の入札が制限されるリスクもはらんでいるのです。そういったリスクを回避するには、とにかく資格者を確保する必要があり、ヘッドハンティング利用の決断をしました。特に、土木施工管理技士の高齢化が顕著であったことから、土木施工管理技士のヘッドハンティングを依頼。土木施工管理技士をはじめとした現場監督の方は。多忙にしていることも多く、アポイントが取得しづらいという難しさもあります。そのため、コンサルタントが施工現場に直接出向いたりするなど、粘り強いアプローチが必要でした。結果的に、1級土木施工管理技士の有資格者2名との面談が実現。そのうち、1名が内定を承諾し、入社が実現しました。

施工管理技士や監理技術者のヘッドハンティングを依頼する際の注意点

建設業界の知見があるコンサルタントが在籍しているか

建設業界には、業界特有の慣習や制度が存在します。ヘッドハンティングを依頼する際は、ヘッドハンティング会社に在籍するコンサルタントが建設業界の知見があるか否かを見極める必要があります。何故なら、建設業界への理解が浅いコンサルタントでは、ターゲット人材を口説くことができずに、移籍が実現しない可能性があるからです。一般的に、ヘッドハンティング会社は、それぞれ得意としている業種や職種を持っています。施工管理技士や監理技術者のヘッドハンティングは難易度が非常に高いため、無駄な着手金を払うようなことが無いためにも、あらかじめ確認しておく必要があります。

実現可能性とコストや料金体系が見合っているか

ほとんどのヘッドハンティング会社が、プロジェクト開始時に数百万円程度の契約金が発生します。この契約金は原則返金されないことが一般的であるため、依頼をする前に、プロジェクトが成功する可能性はどの程度なのか検証する必要があります。悪質なヘッドハンティング会社は、着手金を受領した後、候補者さえ1人も紹介しないという詐欺に近いケースもあるようです。繰り返しになりますが、施工管理技士や監理技術者のヘッドハンティングは難易度が非常に高いため、一定の採用コストがかかる面はやむを得ないですが、実現可能性とコストや料金体系が見合っているかは、検討すべき事項でしょう。

まとめ

本記事では、施工管理技士や監理技術者の採用手法についてご紹介してきました。

数ある職種の中でも、施工管理技士や監理技術者等の資格者の採用は特に難しいとされています。もはや、「待ち」の姿勢では採用どころか、応募さえも期待できないほどの採用競争になっています。ヘッドハンティングは、採用競争過多となっている建設業界において、革新的な一手であり、優秀な資格者を十分に確保することで、同業他社との大きな差別化に繋がります。

建設業は、「人材が命」の業界です。特に、施工管理技士や監理技術者等の資格者がいなければ、十分な工事を請けることができなくなり、会社としての価値を失うことになります。そうなってからでは、致命的です。そうなる前に、建設業界において生き残るためべく、まずすべきことは、「人材への投資」でしょう。

レガシーでは、施工管理技士や監理技術者の採用に苦労している建設企業様に対して、業界特化のコンサルタントが様々なソリューションを提供しています。建設業界の人材獲得は、私たちにご相談ください。


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