近年、建設業界の人手不足は深刻化していますが、従業員の確保に成功している企業は多くないのが実情です。新卒で採用した若手を育てても、ハードな環境についていけずに早期退職。一方で、中途採用の求人を出しても、応募があるわけでもなく、八方塞がりという状況に追い込まれる企業もあるようです。最悪の状況に追い込まれる前に手を打つ必要がありますが、具体的には、建設業界で従業員を増やすにはどういった戦略を立て、実行する必要があるのか。建設業界の採用コンサルタントが解説します。
人手不足倒産が過去最多
時間外労働の上限が厳しく規制される「2024年問題」の影響により、建設業界では人手不足がいよいよ深刻化しています。その結果、工事の遅延や品質低下といった影響にとどまらず、倒産する企業の数が激増しているという状況です。
東京商工リサーチによると、人手不足を原因とする2024年上期(1〜6月)の倒産件数は前年同期比約116%増の145件と過去最多を更新していて、このうち約3割の39件が建設業でした。
資料出所:東京商工リサーチ
もともと建設業界は異常ともいえる人手不足です。建築・土木・電気工事の職業の有効求人倍率は約6.26倍(2024年6月時点)を記録しており、全業界(平均1.03倍)と比べて、極めて高くなっています。
資料出所:東京商工リサーチ
この状況が改善されないまま今年4月から時間外労働の上限規制がスタートしたことから、今後もますます人手不足で倒産していく企業が増えていく可能性は高いと言わざるを得ません。
建設業界で離職する理由
労働時間の多さ
建設業は他の産業と比較すると長時間労働の傾向があります。年々、建設業界の労働時間は減りつつありますが、2022年度の年間実労働時間は1978時間と、全産業平均の1632時間より346時間も長いのが現状です。厚生労働省が発表した就労条件総合調査によると、建築業の平均の年間休日日数は約108日で、全産業の平均、約111日を下回っています。
また、多くの建設現場では週休2日制が浸透していません。工期は天候や資材の遅配などの外的要因に左右されやすく、建設業従業者は工期遵守のミッションを背負っているため、遅れが生じている場合、週6日出勤し毎日終電で帰るというような生活を送ることも珍しくありません。
給与の低さ
労働時間に対して給与が低いことも問題です。建設業は他の業種と比較して賃金のピークが早く、それを超えると、さらに年齢を重ねても給与はなかなか上がりません。近年、建設業従事者の賃金は上昇傾向にあって、2019年時点での全産業男性労働者の平均賃金が560万円だったのに対し、建設業界の全男性労働者の平均賃金は572万円となっています。しかし、労働時間が多く年間休日が少ないことを考慮に入れると、相対的な給与水準は他業界と比べて決して高いとは言えません。
資料出所:帝国データバンクプレスリリース国土交通省
キャリアパスが不透明
従業員が明確なキャリアパスを描けていないため、モチベーションが低下し、入社後の早期離職につながるケースが多々あります。建設業では長期的なキャリア形成が必要であることを伝えた上、一人前になるためのキャリアプランを提示し、技能習得や各種資格の取得に対する経済的・精神的支援を行うなど、キャリア形成のバックアップが必要です。
古い体質
さまざまな業界でデジタル化が進み、リモートワークや裁量労働制が拡充されていますが、建設業界では、紙の契約書が使われていたり、電話やFAXを使ったやりとりが中心になっていたりと、古い仕事習慣が残っていることも多いです。
建設業の特性として、他業界よりリモートなどの新しい働き方を導入しにくい面があるのは否めませんが、DX推進に取り組んで成果を上げている建設会社もあり、時代に合わせて職場環境を変えていかなければ、デジタルネイティブ世代からの支持を得られにくいと言えます。
また、建設業界では昔から、パワハラに苦しめられている人が多くいるという指摘もあります。上司が心ない言葉を投げつけたり暴力を振るったりする例がまだあるとすれば、きわめて時代遅れな業界であると言わざるを得ません。
従業員を増やすことに成功した事例
DX推進で労働時間を削減―地方ゼネコンO社
首都圏でのマンション工事などを手掛けている同社は、直近で多くの求職者を集め、従業員を増やすことに成功しています。その要因として、いち早くDXを推進していたことが挙げられます。
2008年、3代目が家業である同社に入社した際、やり取りはすべて紙のため必要な情報を探すのに時間がかかったり、申請ごとの承認に社長のハンコが必要だったりと、愕然とするほど仕事の進め方がアナログでした。若い人たちはこんな状況を好まないだろうと判断した3代目は2014年、社長に就任したタイミングで社内のDXを推し進めました。
具体的には、社内システムをフルクラウドにし、全ての情報をクラウド上にアップしたことで、自宅などオフィス外からでもアクセスして業務に取り組めるようになりました。
また、メールや電話によるやり取りを廃止して全てチャットに切り替えました。顧客に対しても、それまでのファックスや電話でのやり取りから、デジタルによる簡便でスピーディーな方法に変更してもらうことをお願いしました。9割の顧客との間で電子契約を利用するようになったのがいい例です。こうした効率化の結果、移動に費やす時間を約5割カットできました。
さらに、KPIを「営業利益」に絞って過剰な売上をコントロールする等の経営改革が効果を上げたこともあり、残業が減って有給の取得率がアップし、離職率が下がるなど、働き方の文化が一新されました。
情報の一元化による採用業務の生産性アップ―大手ハウスメーカーS社
大手住宅・不動産会社として全国展開しているハウスメーカーS社は、直近数年間でキャリア採用を中心に、従業員を増やすことに成功させました。
コロナ禍明けに国内受注が順調に伸びて大型物件の施工も増えたため、技術者の業務量が増加し、新卒中心の採用活動では賄いきれなくなり、即戦力となるキャリアを採用していくことがどうしても必要になりました。
そのための取り組みとして、キャリア採用専任組織の整備、ATS(応募者管理システム)の導入、それと並行した採用業務のペーパーレス化、人的リソース最適化による現場との協力体制の強化などの施策を行いました。
これらの取り組みにより、応募者情報の一元化が実現。それまでの各担当者による属人的な進捗管理から、関係者間で情報をワンストップでタイムリーに管理できる採用体制になりました。その結果、採用担当者一人が扱える実質的な業務量が増え、応募者一人一人に向き合う時間や社内の部門関係者、社外のビジネスパートナーと実質的なコミュニケーションをとる時間、依頼先エージェントの数を増やすことが可能になりました。
さらに、共有されたデータを元に、採用活動の状況を客観的に捉え、応募辞退の理由や書類選考の通過率などを分析することもできるようになったため、採用担当部署、事業部の双方から改善策の提案が活発になりました。
こうして採用活動全体の生産性が高まったことが、キャリア採用数を伸ばすことにつながったと言えます。
ヘッドハンティングで即戦力人材を採用―大手プラントエンジニアリングN社
半導体製造装置等のエンジニアリングを手掛けるN社では、有資格者の高齢化が進んでいました。特に、一定の受注金額を超える工事では監理技術者(機械器具設置)の常駐が必要とされるため、監理技術者の存在はN社にとって生命線ですが、3名しか在籍しておらず全員が60代でした。このため退職リスクが高く、監理技術者が不在のため大型工事の受注ができなくなるという機会損失が生じる可能性がありました。
一方、過去10年間の採用活動では成果が出ていなかったため、最後の手段としてヘッドハンティングを決断しました。機械器具設置の監理技術者は非常に希少で、ターゲット人材の選定は難航しましたが、最終的に3名の資格保有者との面談が実現。そのうち1名は現職に疑問を感じていたため、B社からのアプローチに応じました。N社は同業他社と比較して働き方の改善に積極的に取り組んでおり、ターゲット人材から魅力的な労働環境だと判断され、年収はほぼ現状維持の提示だったにも関わらず移籍が実現しました。
施工管理技士や監理技術者などの建設技術者は、長期出張や深夜残業、休日出勤など体に負荷のかかる働き方をしているケースが多いです。企業にとって良好な労働環境を整備することが、求職者からの支持を得て採用成功の可能性を高めることになると言えるでしょう。
まとめ
人手不足倒産が加速している現在、建設業界で従業員を増やすには、従来のやり方のいい部分を継承しながらも、現代の価値観や考え方に沿った施策を行い、若い世代からの共感を獲得していく必要があります。
その一環として、残業時間の削減や休日の確保に取り組み、社員がプライベートの時間を取れる労働環境の整備が重要です。実際、いち早くDX等の業務効率化に着手し、長時間労働に依存する企業文化をあらため、社員一人一人を尊重した「働きがい」を提供している企業に人が集まっています。
ただ、新規システムを導入したものの費用対効果が十分でなかったり、古い体質の社員の抵抗にあって改革が進んでいないケースもあり、企業ごとに取り組みの成否を見ていく必要はあります。
社内での労働環境整備に力を入れているものの、既存サービスを利用した採用手法で思うような成果が上がっていない建設会社は、ヘッドハンティングの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
例えば求人広告等の採用手法では、転職意思のはっきりしている転職顕在層にしかアプローチできません。休日の少ない職場で日々奮闘しているため、客観的な自分の市場価値を把握する機会がなく、したがって、転職市場に出ていないものの、「もう少し休日を確保したい」という潜在的なニーズを持っている人も数多くいると考えられます。
ヘッドハンティングでは、まだ転職活動を始めていない転職顕在層や同業他社にて現役で活躍していている人材へもアプローチし、「口説く」スタンスで臨みます。そのため、クライアント企業の経営理念や労働環境に対しての深い理解が必要になります。もちろん、レピュテーションリスクを考慮しながら、候補者と円滑にトラブルなく交渉を進めなくてはなりません。
LEGACY(レガシー)は、建設業界特化のヘッドハンティングサービスを展開しています。
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