日本では少子高齢化が進み、労働市場は深刻な人手不足に直面しています。特に建設業界では若者離れが加速し、「超人手不足時代」に突入していると言っても過言ではありません。
今後も若年層の人材確保の必要性はあるものの、小さなパイをめぐって獲得競争が激化しているため、定年を迎える前後のシニア世代の雇用を維持していくことが、人手不足を解決していく上で緊急の課題と言えます。
本記事では、建設業でのシニア活用成功事例と建設業界が今後とるべきアクションを紹介します。
建設業界のシニア層の労働環境
人生100年時代
1970年には約3,600万人だった若年層の人口は減少の一途をたどり、2060年には約1,500万人まで減少する見込みです。一方で、「人生100年時代」とも言われ、日本人の健康寿命は伸びているため個人が働ける期間は長くなっています。年金の受給開始年齢が引き上げられていることもあって、多くのシニア世代が退職後の生活に不安を抱えています。また、60歳を超えても、やりがいを求めて働き続けたいと考える人は多く、シニア層の雇用維持の必要性は高まっていると言えます。
65歳までの雇用確保が義務化へ
このような背景から、労働意欲を持ったシニア世代が長く活躍できるよう、高年齢者雇用安定法は定期的に改正されてきました。2021年の改正により、事業主には65歳から70歳までの就業機会を確保するための措置を講じる努力義務が課されました。また、2025年4月からは、定年を超えても働くことを希望する従業員全員を65歳まで雇用することが義務化されます。
建設業界の人材不足と高齢化
建設業界では、役職定年を導入している企業は少ないです。その背景には、深刻な人手不足があります。1997年には約685万人だった建設業界の就業者数は、2020年には約492万人と3割程度、減少しました。さらに、高齢化も進んでおり、建設業従事者の3人に1人が55歳以上であり、60歳以上が全体の3割程度まで増えている一方で、29歳以下は1割程度にとどまっています。このような状況を踏まえると、特に建設業界では、ベテラン技術者であるシニアの活用が必要不可欠と言えます。
資料出所:総務省「労働力調査」、国土交通省「建設業を巡る現状と課題」
シニア層の活用に成功した事例
大手リフォーム会社M社
リフォーム事業を展開するM社は、定年制度を廃止しました。
高齢社員が豊富な経験をもとに建築現場などで若手に的確なアドバイスをしている姿を目にし、健康面に問題がなければ年齢に関係なく働いてもらうことが会社にとって必要だと認識したためです。定年制度の廃止により、健康面に問題がなければ何歳でも正社員として働けるようになりました。
体力に不安があれば週3日勤務も選択でき、その分手取りは減るものの、定年による一律の減額はなく、成果によっては昇給もありえる仕組みで
モチベーションを保ちやすくなっています。これにより、シニア世代の活躍が促進され、複数名の高齢社員がイキイキと勤務し、若手社員のよきお手本となっています。
同社では、高齢社員を講師にして、高齢になっても働き続けられることの魅力を伝える社内セミナーを開催するなどして、定年制度廃止についての社内理解に努めています。
大手ハウスメーカーD社
大手ハウスメーカーのD社は、少子高齢化の影響が特に大きい建設業界において、シニア世代の活用の必要性を早くから認識していました。
2013年には業界に先駆けて65歳定年制を導入し、シニア世代が働き続けられる環境づくりに力を入れています。さらに、2015年4月には「アクティブ・エイジング制度」を導入し、65歳以降も現役として働き続けることができるようにしました。この制度により、労働意欲があり一定の業績が認められるシニア社員は、定年を超えて勤務を継続し、活躍することが可能になりました。
それでも、60歳で役職定年が適用され管理職から外れることになり、シニア向けの賃金制度が適用されるため、収入は3~4割減となり、昇格や昇給はなくなる仕組みでした。これでは仕事へのモチベーションを保ちづらいという声があり、高度な専門性を持つ社員が流出する状況も発生していました。
そのため、2022年度から役職定年制を廃止し、年齢だけを理由に職位や年収が下がることがなくなりました。この変更には社外の多くの人が関心を示し、求人への応募が増えたとのことです。
同社は、求職者とのやりとりを通して、会社人生の締めくくりに裁量や責任の範囲が限られた業務に従事してのんびりしたいというより、「もう一花咲かせたい」という意欲の高い人が多いと分析しています。
「シニアの活用」に効果を上げている企業の好例と言えます。
建設業界が今後とるべきアクション
給与や勤務体系への配慮
シニア社員の活用にあたっては、給与面を十分に考慮することが重要です。仕事において給料がすべてではありませんが、非常に大切な要素であることは間違いありません。最近では結婚年齢が上がっているため、50代でも子育てにお金がかかる家庭が多くあります。こうした家庭にとって、基本給が減少すると家計への負担が大きくなります。
年齢だけを理由に給与を下げるのは、モチベーション低下につながりやすく好ましくありません。もし給与を下げる場合は、その理由をしっかり説明し、納得を得る必要があります。シニア社員を一括りにして画一的に扱うのではなく、一人ひとりの経験やスキルを適切に評価し、その成果を給与や処遇に反映させることが必要と言えます。
また、高齢になれば、体力の低下、高齢の親の介護や自身の病気など、さまざまな問題が発生する可能性も高いため、柔軟な働き方を希望するシニアが多いです。フレックスタイム制度、在宅勤務制度、時短勤務制度など、社員が事情にあわせて柔軟に働けるような労働環境の整備が必要となります。
特に、建設業では安全面への配慮も欠かせません。加齢による心身機能の衰えがあるものの、それに対する本人の自覚が十分ではない場合もあり、
無理な行動で事故につながることも少なくありません。作業内容などを工夫して労働災害防止に努める必要があります。
仕事のやりがい創出
もう一つ重要なこととして、シニア社員の果たす役割をしっかり考えることです。年齢を重ねると、お金だけでなく、やりがいのために働く傾向が強まります。そのため、まだまだ現役で働く意欲がある人が、年齢だけを理由に経験や資格が活かせない職種に変えられると、仕事へのやりがいを失いやすく、転職を考え始めることがあります。シニア社員が自分の役割に納得して、職務に取り組み、これまでの経験を若い世代に伝えることができれば、「周囲から必要とされている」と感じて自己肯定感が高まり、これにより、会社にも大きなメリットが生まれます。
即戦力シニア人材のヘッドハンティング
建設業界は、技術力や経験値がものを言う世界であり、多くの経営者が、経験豊富なシニア層を即戦力人材として評価しています。そのため、他の業界に比べてシニア層の求人は多く、シニア層を採用したい企業のニーズは高いと言えます。
採用手法として最もポピュラーなのは「求人広告」です。リクルートエージェントやdoda等の大手ネット求人広告サイトを使うのが主流となっています。求人広告は、比較的安価で手軽に募集が行えるというメリットがある一方で、自社が求めていない人材からの応募が殺到する可能性も高く、それらに対応する採用担当者の負荷が大きくなるリスクがあります。
また、求人広告による採用でターゲットになるのは、転職の意思を表明して活動を始めた転職顕在層に限られます。転職顕在層の中での採用活動は、給与等の条件面の優劣に目が向きやすく獲得競争は激しくなります。
そのため、採用可能性を高めるには「転職サイトに登録しているがまだ求人への応募はしていない」ような転職潜在層へのアプローチも視野に入れておく
必要があると言えます。転職潜在層の方が圧倒的に多いと言われており、クライアント企業が「欲しい人材」に的を絞って転職潜在層にもアプローチしていくヘッドハンティングが革新的な手法となり得ます。建設業界に特化したヘッドハンティングを活用を検討してみるのはいかがでしょうか。
特に、シニア層は、若い世代と比較してITリテラシーが低いということもあり、転職サイトなどを有効活用できていない方も多いです。そのため、オンライン上に現れないケースも多く、そうなると、オフラインでのアプローチが必要になります。現職で活躍していて、給与や休暇に関して不満はあるものの
日々の業務が忙しく、転職活動には踏み出せていないような人をターゲットにしていくことが可能です。
交渉に当たっては、単なる条件提示では十分ではなく「口説く」というスタンスで複数回アプローチするなどして転職したいというマインドを育てていく必要があります。現職で活躍しているシニア人材が、クライアント企業の経営理念に共感し、キャリアの集大成として転職を決断したというケースもあります。
シニア人材の活用こそ建設業界を生き残る一手
本記事では、シニア層の活用に成功した事例や建設業界が今後とるべきアクションについてご紹介してきました。
超人手不足の建設業界でシニア層を活用していくには、給与水準の確保や勤務時間の柔軟性などの条件面の整備が必要なのはもちろんですが、やりがいの創出や職場での役割の明確化など、数値化しにくい要素をしっかり念頭に置いておく必要があります。
- 「若い人や未経験人材を採用しても、すぐに辞めてしまう」
- 「自社の人材育成にかけるコストや時間がない」
- 「仕事はいくらでもあるが、対応できる人員が足りない」
こんな悩みを抱えている建設事業者は、シニア人材のヘッドハンティングの活用を検討する価値があります。今後、建設業界で生き残っていくには、「即戦力人材の確保」が命題になってくることが間違いありません。若手の採用ももちろん重要ですが、シニア人材の活用にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
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