建設業界では超人手不足時代に突入していますが、特に深刻なのが若者離れです。建設業界全体が将来にわたって発展していくためには、未来ある若者の活躍が不可欠です。本記事では、建設業で加速する若者離れの実態と具体的な対策を紹介します。
建設業界で若者離れが深刻な問題に
建設業界では高齢化が進む一方で、3K(きつい、汚い、危険)のイメージから若者の入職者が増えず、慢性的に人手不足が課題となっています。人手不足は建設業界だけの問題ではありませんが、建設業界の事情はやや特殊です。それは、建設業資格者の育成期間にあります。一般的に建設業技術者の育成には、5年から10年前後の業務経験が必要です。例えば、建設コンサルタント業界において必要となる「技術士」という資格は、7年(総合技術監理部門は10年)を超える期間の実務経験を必要とします。つまり、今起きている若者離れは、将来の日本のインフラを担う建設技術者の圧倒的な不足を引き起こすのです。 建設業界における若者離れは数値にも明確に表れています。建設業就業者のうち、55歳以上が35.5%、29歳以下が12.0%と高齢化が進行し、29歳以下は1割にしかいないという危機的状況です。
出展:最近の建設業を巡る状況について(国土交通省)
こうした現状にもかかわらず、建築物や道路の老朽化に伴うインフラメンテナンスの需要は高まり、今後も建設業従事者の需要は減るどころか、微増していくと予想されています。
建設業界で若者離れが加速する要因とは?
なぜ他業界と比べても、建設業界は不人気であり、若者離れが進んでいるのか。それは、次の要因が考えられます。
長い労働時間
建設業は他の産業と比較すると長時間労働の傾向があります。年々、建設業界の労働時間は減りつつありますが、2022年度の年間実労働時間は2026時間と、全産業平均の1632時間より346時間も長いのが現状です。
出展:最近の建設業を巡る状況について(国土交通省)
建設業では、「2024年問題」というワードが話題になっているように、2024年4月より時間外労働の上限規制が施行されることとなりました。それ以前は法定時間を超えた労働を可能にする「特別条項付き36協定」を締結した場合、6カ月まで上限規制を超える時間外労働が可能になり、実質無制限の残業が認められている状況でしたが、2024年以降は企業側として長時間労働に対する具体策が求められています。
少ない年間休日
厚生労働省が発表し就労条件総合調査によると、建築業の平均の年間休日日数は107日です。他業界では、年間休日を120日以上確保している企業も多い中、建設業界の休日の少なさは、旧来の働き方から変わっていないといえるでしょう。
出典:厚生労働省『令和2年就労条件総合調査』
上記の調査では「令和2年の労働者一人当たりの平均年間休日は116.0日」だと公表されていますので、他業種と比べ少ないことが分かります。加えて、大企業より中小企業の方が生産性が低い面もあり、実質的には年間休日100日を確保できていない中小企業も存在するというデータがあります。経営者としては働き方を改善させたい一方で、請け負う工事の性質や施主により、工期内での完成にコミットする必要があり、十分な休日を確保できない現状もあります。特に、コロナ禍においては、資材の遅配もあり、工期が予想以上に伸びてしまう局面もありました。そういった不測の事態においては、現場の方々にかかる負荷が高まってしまったようです。企業としては、DXや各種システムの導入などを通じて、業務プロセスの見直しや効率化に対応することが必要不可欠となります。
長時間労働の割に合わない給与水準
近年、建設業従事者の賃金が上昇傾向にあるものの、長時間労働かつ少ない休日に見合った給与水準とはいえないでしょう。建設業全男性労働者の2019年時点での平均賃金は572万円でした。対して、全産業男性労働者の平均賃金は560万円です。上記の通り、労働時間が346時間多いこと、年間休日が10日ほど少ないことを加味すると、相対的な給与水準は他業界と比べて低水準にあるといえます。
出展:最近の建設業を巡る状況について(国土交通省)
特に現場の作業員となると肉体的な負荷や事故等のリスクも伴います。相応の水準の賃金を支払うことができなければ、若者が集まらないことが明らかです。今後、建設業界において「人」の価値はますます高まり、人材の獲得競争はますます激しいものとなることが予想されます。建設業界全体として、賃金水準の改善が求められており、長時間労働の是正に取り組むとともに、賃上げの動きが不可欠になるでしょう。
建設業界の若者離れにどう対策すべきか
止まらない建設業界の若者離れに対して、各企業はどう対策を打つべきでしょうか。
根本的な働き方の改善
上記にて述べたように、建設業は他業界と比較して年間休日が少なく、かつ労働時間も長いという現状があります。加えて、現場の施工管理を担当するメンバーにおいては、発注者や取引先各社との折衝や現場管理業務などに追われ、非常に多くのタスクを抱えています。その中でも、工期内で完了させるというミッションを背負っているが故に、繫忙期には、1週間のうち6日間を出勤し、毎日終電で帰る生活を送っていたなどの生の声があります。既に他業界では、リモートワークの拡充や裁量労働制の導入など、働き方に工夫を加えている企業も増えています。建設業の業態として、リモートワークや裁量労働制が導入しづらいため、他業界と同じレベルでの策を講じることは難しいですが、適切な労働時間、適正な報酬、安全な作業環境など、従業員が健康的で満足度の高い職場環境で働けるよう整備することが、離職率の低減に貢献することでしょう。
長期的なキャリア形成支援
建設業界は、技能や資格の習得に一定の実務経験を要する業界です。故に、建設業技術者は長期的なキャリア形成をしていく必要があり、企業はキャリア形成のバックアップ体制を整えることで、従業員の満足度向上に繋がることが期待されます。昨今、新卒生や未経験の若手を採用しても、定着率が悪く、戦力になる前に退職してしまうというケースが多々あるようです。入社後の早期離職を防ぐために、建設業においては長期的なキャリア形成が必要であることを伝えた上、一人前になるためのキャリアプランを提示してあげると良いでしょう。そして、5年、10年とキャリアを積み重ねていけるよう、技能の習得や各種資格の取得に対する、経済的・精神的支援を行うことで、従業員は安心して長期的に勤務することができます。
リブランディング
建設業界は、未だに3K(きつい、汚い、危険)のイメージが根強く、特に若い世代からは、建設業界は労働環境が悪いという印象をを持たれている傾向があります。ネガティブなイメージが形成されていることが多く、これに対しては、業界として改善を行った上で、リブランディング(ブランドの再構築)をしていく必要があります。「古き良き」建設会社が多い中で、レガシーを継承しながらも、現代の考え方や価値観に沿った企業でなければ、若い世代からの共感は得られません。「建設業界では働くことは価値がある」「建設業界で働くことはかっこいい」「建設業界は稼げる」など様々な観点があるかと思いますが、そういったポジティブなブランディングを施していく必要があります。従来の3Kを打ち破り、新たな価値観を建設業界にも取り入れることが若い世代を引き付ける新たな魅力となるでしょう。
まとめ
本記事では、建設業界の若者離れついて解説してきました。
昔とは異なり、日本は近年「超人手不足時代」に突入しています。すなわち、求職者が企業を選べる「売り手市場」であり、企業は人材から選ばれるための努力が求められる時代なのです。
人材から選ばれるためには、「給与」「働き方」「事業内容の面白さ」「社格」など、様々な切り口から魅力的な企業である必要があります。人材確保に苦労されている企業様においては、一度自社を客観的に評価した上で、打ち手を検討してみてはいかがでしょうか。